人には、家でも職場でもない場所が必要だと言われています。
社会学では、そうした場所を 「サードプレイス(第三の場所)」 と呼びます。
家は生活の場所。
職場は仕事の場所。
そのどちらでもない場所で、人は少しだけ肩の力を抜きます。
日本では、その役割を果たしてきた場所の一つが スナック です。
小さなカウンターの店で、お酒を飲みながら他愛もない会話をする。
そこでは会社の役職も、社会的な立場もあまり意味を持ちません。
なぜスナックは、こうした居場所になりやすいのでしょうか。
この記事では、サードプレイスという考え方をもとに、スナックという場所が持つ独特の空気を整理していきます。
サードプレイスとは何か
サードプレイスという言葉は、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg) が提唱した概念です。彼は、人の生活には次の3つの場所があると考えました。
| 場所 | 役割 |
|---|
| 第一の場所 | 家庭 |
| 第二の場所 | 職場 |
| 第三の場所 | 気軽に集まる居場所 |
この第三の場所が サードプレイス です。
サードプレイスにはいくつかの特徴があります。
- 誰でも立ち寄れる
- 立場や肩書きが関係ない
- 会話が中心
- 常連がいる
- 長時間いても問題ない
カフェやバー、パブなどが例としてよく挙げられます。
つまりサードプレイスとは、社会的な役割から少し離れて人と関われる場所です。
スナックがサードプレイスになりやすい理由
日本のスナックは、このサードプレイスの特徴とよく似ています。
理由の一つは、店のサイズです。
多くのスナックは10席前後の小さな店です。
そのため、店にいる人同士の距離が自然と近くなります。
大きな飲食店では、隣の席の人と話すことはほとんどありません。
しかしスナックでは、同じカウンターに座っているだけで会話が始まることがあります。
もう一つの理由は、空間の役割です。
スナックでは、
という形で、空間全体に会話が広がります。それぞれが役割を決めているわけではありませんが、自然と場が成立していきます。こうした構造が、スナックをサードプレイスに近い場所にしています。
スナックが生まれた歴史については、『なぜ日本にはスナック文化が生まれたのか|戦後から続く夜の文化』で詳しく解説しています。
スナックでは役職が消える
サードプレイスの特徴の一つは、社会的な立場が弱くなることです。
たとえば会社では、
といった役職があります。しかしスナックでは、その肩書きがあまり意味を持ちません。カウンターに座ると、みんな 「〇〇さん」 になります。年齢や職業は違っていても、同じ空間で同じ時間を過ごす。この距離感が、スナックの特徴です。
知らない人と会話が成立する理由
スナックでは、初対面の人同士が会話をすることも珍しくありません。これは不思議に感じるかもしれませんが、実はサードプレイスではよく起こることです。理由は、会話のテーマが限定されているからです。多くの場合、話題は
といった、その場の出来事になります。人生の深い話をする必要はありません。それでも会話が成立するのは、同じ空間を共有しているという共通点があるからです。
なぜスナックは居心地がいいのか
スナックに通う人の多くが言うのは、「なんとなく落ち着く」という感覚です。これは、スナックが特別なサービスを提供しているからではありません。
むしろ逆で、何かをしなくてもいい空間だからです。
- 無理に会話しなくてもいい
- 歌わなくてもいい
- 早く帰ってもいい
自由度が高い空間は、人をリラックスさせます。そのため、仕事帰りに少しだけ立ち寄る人もいれば、長年通い続ける常連になる人もいます。
スナックの居心地の良さについては、『なぜスナックは居心地がいいのか|常連が帰ってくる“空気の設計”』でも詳しく解説しています。
スナックが長く続く理由
日本では、何十年も続くスナックが珍しくありません。これは、店の規模が小さいことも関係しています。スナックは
という特徴があります。そのため、大きな広告を出さなくても、人の紹介や口コミで店が続いていきます。また、常連客にとってスナックは単なる飲み屋ではなく 「通い慣れた場所」 になります。
この関係性が、店の寿命を長くしていると言われています。
スナック特有の常連文化については、『スナックの常連とは?なり方と“愛される人”の共通点』で詳しく解説しています。
Q&A|スナックとサードプレイスに関するよくある質問
Q1. サードプレイスとは何ですか?
家庭(第一の場所)や職場(第二の場所)とは別に、人が気軽に集まる居場所のことです。カフェやバーなどが例として挙げられます。
Q2. スナックは本当にサードプレイスですか?
多くの特徴が一致しています。小規模で、会話が中心で、立場を超えた人間関係が生まれる点がサードプレイスとよく似ています。
Q3. スナック以外にもサードプレイスはありますか?
あります。カフェ、パブ、地域のコミュニティスペースなどもサードプレイスとして機能することがあります。
まとめ:スナックは「社会から少しだけログアウトできる場所」
サードプレイスという言葉は少し難しく聞こえますが、意味はとてもシンプルです。
家でもない。
職場でもない。
でも、なんとなく人が集まる場所。それがサードプレイスです。
日本では、その役割を昔から担ってきた場所の一つがスナックでした。スナックでは、会社の肩書きも、社会の立場も、だいたいカウンターの上に置いてきます。
社長も、部長も、先生も、店に入れば 「〇〇さん」 です。
そして多くの人がこう言います。
「今日は一杯だけ。」
しかしそのあと、
・知らない人と世間話をして
・なぜかカラオケを歌い
・気づくと隣の人の人生相談を聞いていて
帰る頃には、だいたいこうなります。
「一杯だけ」の予定が、ボトルが入っています。
たぶんそれも含めて、スナックという文化なのだと思います。